桜町のシデコブシ
三重県四日市市桜町のシデコブシは、
1982年(昭和57)
四日市市指定天然記念物に指定されました。

桜町シデコブシ自生地へアクセス

Look !!「桜町シデコブシ通信」もご覧ください。
(シデコブシの狂い咲き情報もあります)

(1)シデコブシとは?
  • 被子植物・双子葉類・離弁花類・モクレン科(Magnoliaceae)
    学名 Magnolia Stellata
    和名 シデコブシ 
    (日本に自生するホオノキ、オオヤマレンゲ、コブシ、コブシモドキ、タムシバや、中国に自生するハクモクレン、シモクレンと同属)

  • シデコブシは日本固有の植物で、愛知・岐阜・三重の3県の限られた地域の低地や湿地に自生しています。
    これら3県では「自生地の保護」が採られている所が多いものの、周囲の開発によってじわじわとその境界線が脅かされ、シデコブシ自生地の消滅が危ぶまれています。
    私たちの住む桜町のシデコブシ自生地もその例外ではなく、ミルク道路やバス停駐車場が建設されシデコブシの生育地域が劣悪な環境に曝されています。

    こうしたシデコブシの減少状況を危惧して、環境省は2007年度版レッドデータブック(註1)にシデコブシを準絶滅危惧(NT)(註2)と記しています。
    なお「三重県レッドデータブック2005」では、絶滅危惧IB(註3)に指定されています。

    (註1)
     レッドデータブック
    日本の絶滅のおそれのある野生生物の種についてそれらの生息状況等を取りまとめた本。
    (註2)
     準絶滅危惧(NT)
    Near Threatened.  現時点では絶滅の危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
    (註3)
     絶滅危惧IB
    Endangered. 近い将来における絶滅の危険性が高い種。

  • シデコブシ=幣拳(しでこぶし)、四手辛夷(しでこぶし)の名について
    その花の形が、神前に供えられる玉串(たまぐし)や注連縄(しめなわ)に付けられる紙製の飾り「幣(しで)、四手」に似ていることに由来する和名です。

  • シデコブシは、低山に生える落葉小高木または低木で、樹高は5m〜10m程度で、ときには2m以下のものもある。
    シデコブシの成育型は、土壌が発達した立地では高木型、痩せ地では萌芽枝を出して株立ち型、さらに地表を水で覆われるようになると根際から多数の幹を出して潅木叢生型になります。

  • シデコブシの花は、3月末〜4月上旬に葉に先立って咲きます。
    花片の長さは7〜10cmと細長く、白色から淡紅色、その数は10〜25枚と多く、縁は多少波をうちます。この花片の多さと形状がコブシとの大きな相違です。
    集合果は垂れ下がって長さ3〜7cmとなり赤熟します。

  • シデコブシの葉は、互生、長楕円形または倒披針形、長さ5〜10cm、表面は無毛、裏面は淡緑色で若い時にはしばしば脈上に毛があります。  
【桜町のシデコブシの特徴】
  • 「シデコブシ産地別花被比較」と題する調査記録によると、
    桜町のシデコブシは、花被数・・・12枚、花被最長・・・59mm、花被最大幅・・・12mm、
                 花被色・・・淡紅色。全ての株において同じ形態を示す・・・とあります。
                 (花被(かひ)・・・花の萼(がく)片と花片)
    一方、「シデコブシの花弁の数は、一般には12〜18枚で、個体によって変動がある。」との説もあります。

  • 2008年の夏から、非常に珍しい“シデコブシの狂い咲き”が観察されています。
     関連ページ
    *2008年夏・・・ シデコブシ通信第4報・2008年7月23日号
    *2009年夏・・・ シデコブシ通信第3報・2009年4月2日号、及び第4号・2009年7月17日号
    *2010年夏・・・ シデコブシ通信第4報  2010年7月21日号 

(2)シデコブシの生育環境
 伊勢湾を取り囲む愛知、岐阜、三重の丘陵の低湿地は、新第三紀鮮新世(520万年前〜)から第四紀更新世前期(〜70万年前)の砂礫層に覆われ湧水が浸み出している。このように特有の環境下に自生して他地域には見られない独特の固有植物を“東海丘陵要素植物群”と呼び、シデコブシはその一つです。
  • 東海地方の丘陵、台地の低湿地およびその周辺に、固有もしくは日本での分布の中心がある植物を東海丘陵要素と呼び、シデコブシ、マメナシ(イヌナシ)、ヘビノボラス、ミズナラ近似種(モンゴリナラ)、ヒトツバタゴ、クロミノニシゴリ、ナガボナツハゼ、ハナノキ、ナガバノイシモチソウ、トウカイモウセンゴケ、ヒメミミカキグサ、ミカワシオガマ、ミカワバイケイソウ、シラタマホシクサ、ウンヌケの15種を指します。(参考文献:『里山の生態学』広木詔三編・・・1989年植田邦彦金沢大学大学院自然科学研究科教授説による)

  • 東海丘陵要素の植物群が分布する地域、すなわち伊勢湾を取り囲む地域の丘陵・台地・段丘地帯を周伊勢湾地域と呼び、鈴鹿山脈東麓、知多半島から庄内川・木曽川地域(名古屋東部、東濃、木曽南部)、天竜川流域(下伊那)、矢作川中流域(豊田〜岡崎)、新城〜渥美半島〜浜松の各地域を指します。(参考文献:『里山の生態学』)
    これらの地域は、新第三紀鮮新世(520万年前〜164万年前)から第四紀更新世前期(〜70万年前)の砂礫層が丘陵や台地の地表面を形成しています。
    その砂礫層中にシルト層(砂より小さく粘土より粗い堆積物の層)が多数挟まれているので、そのため湧水がしみ出して斜面や谷底平野に湿地が形成されます。
    この湧水に涵養された低湿地は、一般に泥炭の堆積がなく、土壌層が存在せず、水はごく貧栄養で比較的低温、弱〜強酸性で、砂礫が露出しています。
    こうした特異な湿地が東海丘陵要素の主たる生育環境です。

  • シデコブシは、東海丘陵要素の生育環境の中でも、とりわけ日当たりがよく、多少とも湧き水がある湿地や低い丘陵の谷すじの山中か、日当たりの良い山林の端で表面にミズゴケが覆っているところで生育します。

  • シデコブシは、人間の生活域の間近に自生しているので、古来より、家庭用燃料として伐採されたり、自生地が溜池や水田に作り変えられたりしてきました。
    かろうじて破壊を免れた自生地も、高度経済成長期以降、道路、橋、ダム、廃棄物処理場など土木建設や宅地造成など諸々の開発によって、その消滅が危惧されています。


(3)三重県四日市市桜町のシデコブシ自生地
シデコブシ遠景
(撮影日:2005年4月1日)
シデコブシは右、白っぽく見えている。蕾はかたい。
桜町のシデコブシ自生地の北西角から撮影
左奥はミルクロード。通行する車が見える。


1982年(昭和57)2月16日、
  四日市市指定天然記念物に指定される。

【場所】
 四日市市桜町内を走る県道140号(四日市菰野大安線。通称ミルクロード)の、三重交通名古屋行き高速バス停・桜花台駐車場の南側、窪地のフェンス内。

【指定地面】
 約250平方メートル

 四日市市教育委員会の「説明板」が建てられています。



2005年4月16日(土) 午前11時 (撮影 相場義生氏・桜ヶ丘)


(4)桜町シデコブシ自生地の状況
右の写真は、1997年(平成9)撮影
  • 桜町シデコブシ自生地は、北向きの傾斜地にあり、日当りはあまりよくありません。

  • ミルクロードは昭和46〜61年次の工事で部分的に順次開通し、シデコブシ自生地のすぐ横・東側を走る桜地区域は、1981年(昭和56)に開通しました。
    その8年後の1989年(平成1)、三重交通高速バス停駐車場が自生地の北側に造成されました。
    結果として、シデコブシ自生地の周囲二辺がコンクリート建造物に囲まれた形となりました。

  • 年を追う毎にミルクロードの交通量は増加しており、この辺りの大気汚染が進んでいることは十分考えられます。
桜町シデコブシ自生地(1997年)
(撮影日:1997年4月9日)
シデコブシに起こった環境変化
      ・・・・たかが8年、されど8年・・・・
8年後
右の写真は、
 8年後の2005年(平成17)撮影

  • 大気汚染の結果か、竹害か、あるいは人為的なものか定かではありませんが、シデコブシと混生していた雑木が徐々に姿を消し、シデコブシ自生地の背後から生育旺盛な竹の侵食を受けています。
    (辛うじて、シデコブシの周りの竹だけは、心ある方によって伐採されています)

  • つまり、シデコブシと混生する植物の種類の変化が認められ、自然の植生が失われつつあるのは明白です。
    一度失われた植生は、元通りに復元することは非常に困難です。

  • 幸いにも、斜面からしみ出す湧き水で、シデコブシの林床は湿潤に保たれ、シダ類コケ類に覆われてまだまだ健全です。

  • とは言え、東海地方の気候では、林を自然のままに放置すると、常緑広葉樹林に傾いていきます。
    しかも、昔は日常生活に利用された竹も、今では放置され繁殖し過ぎて、ここ桜町ばかりでなく、日本各地で"竹害"として大きな問題となっています。
桜町シデコブシ自生地(2005年)
撮影日:2005年4月1日。 蕾は未だかたい)


桜町のシデコブシ林床
桜町シデコブシ林床
(撮影日:2005年4月1日)
  • 他方では、野生のシデコブシは栽培で接木繁殖され、日本国内ばかりでなく諸外国でも植えられて、広く人々に愛されています。
    しかし当然ながら、栽培種は野生種(原種)とは違います。

  • 自然の叡智に育まれて数百万年もの永い間、種を保存し続けたシデコブシ。
    その自生地の近くに住む私たちは、「野生種のままのシデコブシとその自然環境」を存続させたいと願っています。
    そのため、あらゆる要因を考慮して、シデコブシの生育しやすい雑木林=落葉広葉樹林として保全するために、今、わたし達は火急の課題に直面しています。
                                           (以上、2005年4月記)
【追記】
 2006年以降、自生地の環境整備活動状況 (2011年6月25日記)
 2006年 4月初め、自生地は竹の侵食を受けて荒廃し、シデコブシの消滅が危ぶまれた。
(後で聞いた話では、桜町シデコブシ自生地は、四日市市指定天然記念物に指定された1982年以降ずっと地権者様の御好意で環境保全が成されていたが、2005年夏地権者様が病床につかれると、あっという間に荒廃してしまったということであった)
4月20日頃、桜市民センター職員によって竹が伐採された。
5月下旬から6月上旬にかけて、四日市市教育委員会社会課による自生地の事前調査の後、陽射しを遮る雑木の伐採など本格的な環境保全整備が実施され、シデコブシの日照と風が確保された。
(記録ページ:「桜町シデコブシ通信」2006年度へ
 2007年 2006年の自生地整備で日照と風通しが改善されたが、その反動で竹の繁殖が旺盛になり、鈴木郷土史会員と「よっかいち環境クラブ」のボランティアによって、筍の除去や竹の伐採が熱心に行われた。
(記録ページ:「桜町シデコブシ通信」2007年度へ
 2008年 引き続きボランティア活動実施。
初めて夏季に「シデコブシの狂い咲き」を確認。
(記録ページ:「桜町シデコブシ通信」2008年度へ
 2009年 3月、再び四日市市教育委員会社会課が環境保全整備実施。
4月以降はボランティアによる保全活動実施。
夏季、「シデコブシの狂い咲き」を確認。
(記録ページ:「桜町シデコブシ通信」2009年度へ)
 2010年 引き続きボランティア保全活動実施。
夏季、「シデコブシの狂い咲き」を確認。
(記録ページ:「桜町シデコブシ通信」2010年度へ
 2011年 環境保全活動はボランティアによって継続され、活動人数も年々増加している。

2011年6月、三重交通高速バス駐車場側から撮影 (合成写真)




「東斜面」 シデコブシ(ミルク道路から撮影)


「北斜面」 シデコブシの根本
2011年6月現在、シデコブシの根本周辺の林床は、東と北両斜面ともにシダ類に覆われ湿潤に保たれている模様。


(5)近隣のシデコブシ自生地

  その1・・・四日市市川島町八ツ谷
  • 1988年(昭和63)11月7日
    四日市市指定天然記念物に指定される。
  • 1991年(平成3)3月26日 
    三重県指定天然記念物に指定される。
  • 生育環境:
    シデコブシ群落の前方は、田んぼや畑が広がり、日当たりが良く、しかも後方の丘陵地から湧き水がしみ出し,、林床はコケ類などの湿地性植物で覆われている。
川島町シデコブシ自生地(1997年)
川島町のシデコブシ自生地
撮影日:1997年4月11日)

シデコブシに起こった環境変化
      ・・・・たかが8年、されど8年・・・・
8年後
2005年4月9日(土)、8年振りの探訪。
  • 川島町のシデコブシは満開でした。

  • シデコブシの本数が減少した印象有り。

  • シデコブシ自生地の前の田んぼが、「ビオトープ」として整備され、すぐ近くを流れる鹿化川沿いの桜並木の本数が増えて更に美しくなり、この辺り一帯が町民の散策路へと変貌していました。


川島町シデコブシ自生地(2005年)
ビオトープの後方がシデコブシ自生地
(撮影日:2005年4月9日)
以下は、前・川島地区市民センター職員の談話(2005年4月11日)
  • 年々シデコブシの本数減少が目立つため、専門家の調査結果に従って、数年前、シデコブシと混生する繁殖旺盛な樹木を伐採して、年間日照時間の確保に努めたが、未だ効果が現れない。
    昭和30年代後半までは、地区民が薪(たきぎ)を求めてこの林で柴刈りをしたので、林は繁りすぎることは無かったが、同時にシデコブシも切られ大木には育たなかった。
    昭和40年代以降、各家庭に石油とガス燃料が普及し、薪材の需要は無くなり林は放置され、シデコブシは生育し始めたが、繁殖力旺盛な樹木がシデコブシの生育を抑えているとみられる。
  • ビオトープは、2003年(平成 15)5月、川島地区の小学生と大人が集まって造成した。

  • 桜地区智積町の「智積養水」の保全と、「ビオトープ・メダカの学校」に力を注いでおられる芳山末一様には、川島地区センターで「ビオトープについて」2回の講演と、桜のビオトープから“紅白の蓮(はす)とヨシズ”を数株寄贈していただいた。
  その2・・・三重郡菰野町田光東北山
  • 1995年(平成7)
    菰野町天然記念物に指定される。
  • 1996年(平成8)3月
    「田光シデコブシ及び湿地生物生息地」として、三重県指定天然記念物に指定される。
  • 2005年(平成17)3月2日、 「田光シデコブシ及び湿地植物群落」として、国指定天然記念物に指定されました。
  • この群落には、700本以上のシデコブシが自生しており、日本でも有数のシデコブシの生育地です。

  • 谷すじの緩やかな斜面から湧水がしみ出し、シデコブシをはじめとして、「東海丘陵要素植物」とよばれるシラタマホシクサやミカワバイケイソウなど東海地方特有の植物が生育しています。
菰野町田光シデコブシ自生地
菰野町田光のシデコブシ群落地
(撮影日:2005年4月3日)
       国指定天然記念物・菰野町田光シデコブシ
         (撮影日:2005年4月3日)

菰野町田光シデコブシ林床
 田光のシデコブシ林床。
湿地性植物で覆われている。
(撮影日:2005年4月3日)

                     掲載:2001.01.09  更新:2005.08.10、2011.06.25      文責:永瀧 洋子                     
参考文献: 『四日市市史第一巻、第四巻』、 『四日市のあゆみ』、 『四日市市研究創刊号』、 『こものの文化財』(菰野町教育委員)『里山の生態学』広木詔三編、 『三重県にゾウがいた頃、菰野にシデコブシが生まれた頃』菰野ライフカレッジ・レジュメ(三重県立博物館津村善博著)
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